農業にまったく興味がなく、大学3年の冬には早々と就職先の内定を得ていた槇紗加(まき さやか)さん。友人の付き添いで訪問した農業の現場で“おもしろい仕事”と感じたのをきっかけに進路を180度転換、卒業とともに就農に向けて動き出しました。現在は小田原市内の耕作放棄地でレモン、キウイフルーツ、甘夏、湘南ゴールドなどを栽培しています。そんな槇さんに農業のこと、地域のことを聞きました。
就職というターニングポイントで自らの生き方を見直す
― まずは農業を志したきっかけから教えてください。
大学4年生のとき、友人が農業に関する研究をしていて、遊び感覚で付き添っているうちに「農業はいい仕事かもしれない」と思い始めたのがきっかけです。幼稚園と小学校の教員免許を持っていて教育に興味があったので、保育士さんの人材紹介や子育てメディアを手がける会社から内定をいただいて就活を終えていたんですが辞退して農業の道に進む決断をしました。
― 驚くような方向転換ですね。どんなところに農業の魅力を感じましたか?
農家さんを回っているだけでは一歩踏み出すことができなかったんですが、今もお世話になっている矢郷農園の矢郷さんに出会って、お話を聞くうちに農家はおもしろい仕事で、これを仕事にしたら一生つまらなくはなさそうだなって(笑) 子どもの頃は鼓笛隊に参加したり、応援団長をしたり挑戦することが好きだったのに、高校受験の頃から安定志向というか一歩妥協するようになっていて……。それがコンプレックスというかモヤモヤしていたんです。
今は、農業や農地に興味はあるけれど知り合いがいなくて遊びに来られない人をうちの農園に招いて、農業の良さに気づいてもらえる瞬間に立ち会えるのが楽しいです。
― そんな経緯があったんですね。自然相手ということもあり大変なことも多いのではないですか?
うちの農園は耕作放棄地の段々畑なのですが、中にはジャングルのようになってしまっているところもあって。重機が入れないこともあり、その開墾は私一人ではなかなか進まず大変です。そもそも肉体労働、重労働ということで、ツラいなと思うことは今でもありますが、そういうときにも矢郷さんが助けてくださるのでありがたいです。
住み始めて2年、第二のふるさととしての小田原
― 大学卒業とともに小田原に引っ越されたそうですね。
実際に住んでみて感じる小田原の良さを教えてください。
人とのかかわりが密なところ、距離感が私には心地いいです。ここに住み始めてまだ2年ほどですが、周りに頼れる方がたくさんいてくださいます。例えば、良くしてくださる漁師の方に、夜の漁に連れて行ってもらうこともあります。獲れた魚は捌いて食べるんですが、そんな自給自足ができる環境ってなかなかないですよね。
それに東京や横浜へのアクセスは良いのに、市街地から車で少し走らせればこんな自然の景色が残っていて、眺めているだけで自然と気分が晴れる。動物にとっても暮らしやすいのか、作業中に猿から「シャーっ」と威嚇されたこともありますし、小屋を開けたらイノシシの子どもが出てきたこともあるんですよ。
― 取材中も何人もの顔見知りの方とあいさつをされていますが、
地域とのかかわりで意識されていることはありますか?
昨日は農道整備があったので地域の方に混ざって農道の清掃活動をしました。ほかには、どんど焼きや地域のお神輿を担いだり、地域対抗運動会で石橋地区のメンバーとして出場して打ち上げにも参加しました(笑) こういう行事に参加すると地域愛が深まるんですよ、とっても! そして「また来年も参加したい!」と強く思うんです。
一度飛び込んでしまうと、みなさん温かくて。お祖父ちゃんの跡を継いで農業を始めた子や古民家シェアハウスを運営しながら猟師をしている方、ボディビルをしながら猟師をしている方など、同世代の友人が多いことが心強いです。
― 地域に加わるようになって気づいた課題もありますか?
40、50代の方とは、そうした地域のイベントで知り合うことができるのですが、もっと上の世代の方とはあいさつをする程度。そうした世代の方が、今まさに耕作放棄地の問題を抱えていらっしゃることが多いんですよね。かかわりが持てれば、果樹が元気で農地の環境が維持できている段階で引き継げるかもしれない。耕作放棄地ってもったいないし、森に住む生き物との棲み分けという点でも役割があるので、考えていかなければならないことですよね。
マルシェや農業体験などリアルな機会づくりをしたい
― 今後、JIMOTTOが一緒にできることはありますか?
私は独立したてで、これから初めて本格的な収穫期を迎える段階で直売所にも出したことがありません。だから、マルシェとかリアルな場所で採れたてのレモンやキウイフルーツなどの販売をしてみたいです。ほかには、農業体験などのイベントでうちの農園に来ていただけたら楽しいだろうなと思います。
― 子どもたちとの農業体験イベントなら、
まだ若い槇さんならではの視点を活かした楽しい企画ができそうですね。
農家の中ではお子さんたちと年齢が近いほうだと思うので、参加者さんが楽しめるように考えてみたいですね。