実業家の原三溪によりつくられた日本庭園「三溪園」。1906(明治39)年に市民に広く公開されたのを機に、市民の憩いの場として親しまれてきました。東京ドーム約4個分の敷地には、10棟の国の重要文化財建造物をはじめとする貴重な建造物が点在。その維持、修繕の現場で活躍している原未織さんに、三溪園の魅力や、文化財を守り後世に受け継ぐ仕事の大切さをうかがいました。
各地から集められた歴史的建造物と庭園が調和する三溪園
― まずは三溪園について教えてください。
三溪園は実業家の原三溪により造園された日本庭園です。日参される来園者の方も多く、庭園、美術品、建造物、野鳥など、さまざまな目的を見つけて楽しんでいただくことができる懐の深さが特徴だと思います。私の専門である建築の分野に目を向けると、大学で学んでいた頃から「横浜で名建築を見るなら三溪園」というイメージがあり何度も通いました。実業家でありながら審美眼に長けた原三溪という人物の偉大さを日々感じています。
― 三溪園らしい風景を楽しめるおすすめの場所を教えてください。
正門からは少し距離がありますが、内苑まで足を伸ばしていただきたいです。なかでも、池越しに見る臨春閣は、ポスターやリーフレットなどにも使われている三溪園を象徴する場所なので肉眼で楽しんでいただきたいです。現在30年ぶりの保存修理工事中ですが、2021年の夏以降には覆いがとれて美しい姿をお披露目できる予定です。一般には非公開なのですが、聴秋閣の2階から見る風景は素晴らしいとしか言いようがありません。聴秋閣は三溪園の中で最後に配置された建物で、すべてが計算され尽くされていることを実感します。皆さんにご覧いただけないのが残念です。
― 三溪園を訪れた人におすすめしたい飲食スポットはどこですか?
園内には、お客さまにご利用いただける茶店が3箇所あります。それぞれに良さがあり、優劣をつけるのが難しいですね……。「三溪園茶寮」は、大池に一番近い場所というロケーションの良さが魅力です。お料理もおしゃれで、大池とからめてインスタ映えする写真を撮っていただけます! 「雁ヶ音茶屋」は素朴で親しみやすい印象があります。ファンの方々の間では有名だそうですが、小田和正さんもご贔屓だそうですよ。そして「待春軒」。こちらは三溪さんの親族の方が経営されています。三溪さんが考案したと言われる三溪そばが名物で、高級感のある落ち着いた雰囲気が特徴です。気分やシチュエーションに合わせて使い分けていただくのが良いと思います。
「三溪園茶寮」
「雁ヶ音茶屋」
「待春軒」
歴史ある建造物を修繕する仕事の意義、難しさ
― なぜ建築に興味をもち、どのような経緯で三溪園で働かれるようになったのですか?
母方の祖父が大工をしていたので、小さい頃から家や家具づくりを間近で見てきました。また、父方の実家は茅葺き屋根の古民家で、祖父が「この家はすごく価値があるものだ」「俺が安易に手を入れられるものではない」と尊敬の念を込めて話していたのを聞いて、子どもながらに「古い建物は優れた技能によってつくられたもので、大切にしなければならないもの」と考えるようになっていたのかもしれません。
大学では建築史を専攻して、建築士の資格も取得しました。古い建物を守り、活用する仕事をしたいと思っていました。卒業後は、登戸にある「川崎市立日本民家園」に勤めていましたが、恩師からの紹介もあり2019年から三溪園に勤務しています。
― 具体的にどのような仕事をされていますか?
大きく2つの業務があります。1つは、庭園内にある建物の維持、管理のために必要な工事の手配と進捗管理です。最近は台風や大雨など予測がつかない自然災害の影響を受けることも増えているので、そうした備えもしていきたいと考えています。
もう1つは広報・教育普及業務です。専門的な知識をいかし、わかりやすい表現でパネルをつくっておもしろさや魅力を伝えたり、現在はSNS(@sankeien_garden)を使って保存修理の様子などをリアルタイムにレポートしているのでぜひご覧ください。祖父が私にしてくれたように、興味を持ちやすいように噛み砕いて伝えることを意識しています。
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― 仕事の手応えや意義を感じるのはどんな時ですか?
伝統的な技能は、一般的に手間がかかります。例えば、木材1つを切るにしても、今なら電動工具であっと言う間にできることを伝統的な方法では手道具で行います。その技術を受け継いでいることに価値があると思います。もちろん、できあがったものの美しさにも違いがありますし、そうした技術を受け継ごうという職人さんの心意気がかっこいい! そのお手伝いができるのは幸せなことだと感じています。
コロナ禍以前は、三溪園に親しんでいただくために工事現場見学会を企画していました。多くの参加者さんが集まり、「すごい!」とか「今まで知らなかった」など良い反応があったり、小さなお子さんが目をキラキラさせながら参加してくださっていました。工事現場を見ていただくことで、後継者の発掘につながるといいなと思います。早く再開できたらと思います。
三溪園を健全な状態で次の時代に残したい
― 今後の目標を教えてください。
三溪園は市民に開かれた憩いの場であり、最近はブライダルフォトで利用される方も増えています。人生の節目に訪れる大切な場所として、これかも変わらずあり続けてほしいと思います。そのために私自身のスキルアップとして、文化財建造物の保存・修理の主任技術者の資格を取得したいと考えています。今の時代に受け継がれた責任あるバトンを、次の時代に健全な状態で引き継ぐことが私の役割だと思っています。
しばらく修繕事業が続く予定なので引き続き情報発信にも力を入れていきます。修繕の現場は、職人さんの研鑽の場でもあるので、その認知も広めていきたいです。
― 「JIMOTTO」とコラボレーションできそうなことはありますか?
地元を大切に思う方々とつながれたらいいですね。私たちだけの力ではできないこともあると思うので、一緒にできることを考えてみたいです。
●横浜 三溪園 – Yokohama Sankeien Garden –
住所/〒231-0824 神奈川県横浜市中区本牧三之谷58-1
Tel/045-621-0634(※番号のおかけ間違いにご注意ください)
開園時間/9時~17時(入園は閉園の30分前まで)
休園日/12月29日、30日、31日