川崎の工場地帯にある「Kitchen美遊」は、岩(いわ)さんのお母様が代表を務めるレストランです。そこに2018年9月から加わり、共創担当という飲食店の枠を超えた活動をスタートした岩さん。お店のある川崎について深く知るうちに、生かされてきた川崎に恩返しをしたいと思うようになったそう。そんな岩さんの現在の活動、これからについてうかがいました。
川崎を知るうちに恩返ししたいという気持ちが生まれる
― 「Kitchen美遊」に入ることになったきっかけから教えてください。
「Kitchen美遊」は子育てが一段落した母が2009年11月に始めた食堂なんです。母は町工場の娘で、従業員は家族同様の暮らしをしていて、当時はご飯の準備などもしていたようなんです。そんな経験があるからか、工場で働く人においしくて安心して食べられる食事を提供したいと「Kitchen美遊」を始めたんです。 そう考えた母の気持ちがよくわかりますし、兄から誘われたこともあり、0から何かを始めるより母が大切に守ってきた「Kitchen美遊」をベースにして、私にできることを考えてみようと思ったんです。
― それまで飲食関係のお仕事をされていたのですか?
前職は会計系の人材派遣・コンサル、管理部門向けのセミナーの企画・運営など、飲食業とは無縁のように思えますが、今までやってきた経験をどうやったら活かすことが出来るかを考えていました。ただ、実際に食堂に入ったところで「何をしよう?」という状態。それまで川崎には縁のない暮らしをしていたので、まずは「Kitchen美遊」のある川崎を知ることから始めようと思ったんです。そんななかで、「岩」という名前を出すと「日の出製作所の」と知ってくださっている方が多いことに驚いたのとともに、川崎に生かされてきたんだなと強く感じたんです。それで「川崎に恩返しすることから始めよう!」と思ったんです。
川崎発祥の三角おむすびをきっかけに広がるご縁
― そんな経緯があったんですね。最初の取り組みはどのようなものだったのでしょうか?
川崎駅にある川崎市産業振興会館でコミュニティカフェ「まんまmiyu(2022年6月末で閉店)」をやっています。「Kitchen美遊」があるのは工場団地で離れ小島なんですよね(笑) 産業振興会館という役割のある場所に入れば、いろいろな情報が集まってくるのではないかという期待もあって出店を決めたんです。実際に、補助金の話やマッチングの相談とか、こうした情報を求めている人はたくさんいるだろうなと感じるものがたくさんあって。私が得られた情報をみんなに共有できるコミュニティづくりができるといいなと思うようになりました。
「まんまmiyu」は、川崎が発祥の地と言われている三角おむすびを中心としたメニューをお出しする「おむすびカフェ」として営業しています。思いつきではじめたのですが、やっていくうちにおむすびの可能性を感じるようになって。例えば、近隣の飲食店さんとコラボできるし、各地に根づいている食文化や歴史とか忘れ去られてしまいそうなものも、おむすびに込めるとみんなに届けやすい。おむすびとコミュニティは強く結びついていて、おむすびを使った地域活性ができるはずだと思いました。
― 実際に、おむすびをきっかけにご縁が広がっていると聞きました。
そうなんです。「まんまmiyu」の東海道おむすびという企画をきっかけに、同じ川崎駅にある「ホテル縁道」の吉岡さんから「朝食のおむすびを担当してくれない?」とお声がけをいただいて、2021年の7月からおむすびを提供しています。川崎生まれの「香辛子」(こうがらし)をアレンジした香辛子味噌のおむすびや定番メニューをご用意させて頂き、縁道さんのこだわりで、今年120周年を迎える川崎の「高喜商店」さんの県産の海苔をお使いになられています。
― 動き始めるといろんな波及効果があるものですね。
それに加えて、「やさいバス」という仕組みを川崎にもってくる取り組みのなかで、川崎の農家さんとのつながりも増えてきて。朝食に付くお惣菜に川崎産の野菜が使えるときには、積極的に取り入れています。ちなみに「やさいバス」は川崎市の南北をつないで地産地消を推進する活動の一つで、ここでも新たなコミュニティができています。
誰もが胸を張って「川崎出身です」と言える街に
― 他にも現在進行中の活動があるんですよね?
例えば、先ほど触れた香辛子は川崎で生まれた野菜です。いろんな方が興味を持っていましたが、収穫時期が限られているのがネックになっていて、商品化が進んでいませんでした。そこで、弊社の加工場で乾燥させて、使いやすい状態にしました。その結果、ハーブティーや海苔、豆菓子や肉みそなど、さまざまな商品に香辛子が使われるようになりました。恥ずかしながら、食品加工の経験、知識はほとんど0でしたが、誰かがやっていることは私にもできるはずだし、わからないことをそのままにできない性格もあって、必死に研究して形にしました。 他には「川崎市中小企業間連携新規事業化モデル創出事業」で採択された取り組みで、自販機で川崎の名産品を売る「川崎イイモノ直売所」というのもあります。
― そうした地域やコミュニティを大切にする取り組みをするときに、
岩さんが大切にされていることはありますか?
私や家族が川崎に生かされてきたように、私一人でできることは一つもないんです。そう思うと、自分だけが良い思いをしても満足した気持ちは生まれないし、そう思った瞬間に広がりはなくなる。周囲の方々の後押しを受けて動き出したことが、その取り組みかかわってくださる人たちにとってもいい形になるといいなという思いは常にあります。
― 最後に今後の目標を聞かせてください。
川崎で仕事をさせて頂く中で直面した、①南北の流通の課題 ②小ロットの商品開発の壁 ③小規模事業者の販路開拓の難しさ。この3つの課題解決に取り組んで行きたいです。それに、川崎のお弁当といえば「Kitchen美遊」と一番に思い出してもらえるようになりたですし、川崎らしい新しいお土産品も作っていきたい。「川崎」の塩づくりを通じて、海のキレイさや環境を考えるきっかけ作りに取り組みたい。お蔭様でやりたいことだらけです。川崎を愛する人たちが胸を張って「川崎出身です」と言えるような街づくりのお手伝いをしたいです。
― 「JIMOTTO」とコラボレーションできそうなことはありますか?
私が「Kitchen美遊」に入ってからできたつながりを活かしてイベントを企画しています。Kitchen美遊があるお大川町で定期的に開催する事を目指いているので、一緒に盛り上げて、楽しんでもらえたらうれしいです。