川崎市の真ん中に広がる生田緑地に隣接する約4000坪の私有地が『トカイナカヴィレッジ 松本傳左衛門農園』です。野菜づくりや収穫体験ができたり、採れたて野菜が主役の「農家めし」が味わえたり……、“イナカをアソブ体験型施設”として親しまれています。村長の松本穣さん(右)と運営責任者の西山雅也さん(左)に、トカイナカヴィレッジの取り組みをうかがいました。
トカイのようなイナカのような。川崎市多摩区の魅力
― トカイナカヴィレッジがある川崎市多摩区の魅力を教えてください
松本さん:
私は350年続く農家の長男として生まれ育った街なので愛着があります。ご近所付き合いが残る、人情味のある街です。それに、70歳で退官するまで大学教授をする傍ら趣味で農業を楽しんでいたのですが、豊かな自然の恵みはこの地域の魅力だと思います。
西山さん:
まずは利便性の良さがあげられると思います。新宿へは最寄り駅の「向ヶ丘遊園駅」から最短20分です。また、緑や農地も多く都心と比べれば田舎かもしれませんが、地方から見れば都会のイメージがある。都会と田舎の境界線のようなおもしろい地域だと思います。最近はリモートワークの促進により、ベッドタウンから“ライフタウン”へと変化しつつある街ではないでしょうか。
また、市民活動や地域活動が盛んで、理解が深いのも特徴。地域に根ざした取り組みを長くされている方が多いので、例えば「日本酒を造ってみたい」と思ったら、あっという間にネットワークがつながって実現できてしまう! 実行力、行動力がある方が多いですね。
― 特に生田緑地周辺のおすすめの周遊コースや立ち寄りスポットはありますか?
西山さん:
生田緑地の一部で、私たちが酒米をつくっている「とんもり谷戸(やと)」は、散歩コースにおすすめ。初夏には蛍が舞う場所としても有名です。ご近所の「やまだ花園」さんは、目の前にバス停があることから「花ノ停留所」として季節の花を購入できるだけでなく、ワークショップや食を絡めたイベントを開催していることもあるので、トカイナカヴィレッジの帰りに立ち寄られてはいかがですか?
また、溝の口の「フィオーレの森」の中にある「ラ・ポルテ」というフランス料理店では、トカイナカヴィレッジで採れた野菜をお召し上がりになれますよ。
地域に根ざし枝葉を広げるトカイナカヴィレッジの活動
― どのようにしてトカイナカヴィレッジがつくられたのですか?
松本さん:
先祖から受け継いできたこの土地を「地域の方に開放したい」という思いがずっとありました。損得勘定ではなく、ここに来てくださる人が喜んでくれたらいいなと。それで、定年を迎えた時に一念発起して「トカイナカヴィレッジ」を立ち上げました。
私は人に恵まれていて「農業公園のような場所をつくりたい」と、構想を話すと協力者が次々に表れて、今に至っています。
― トカイナカヴィレッジではとのような活動をされているのですか?
西山さん:
村長(松本さん)の人柄と人脈に支えられて今年で5年目を迎えました。今は、いろいろな慈業(じぎょう)が動き出しています。
例えば「はたけの窓口」というプロジェクトでは、松本家に伝わるレシピでトカイナカヴィレッジの野菜を楽しんでいただく「農家めし」を提供しています。週末はピクニックデーとして、リーズナブルにテイクアウトができます。
「いなかの窓口」というプロジェクトでは、移住を考えている方たちの窓口をしています。宮崎県の諸岡村とは民間姉妹都市提携を結んでいるほか、島根県の雲南市、福島県の飯舘村、千葉県館山市の安西農園、神奈川県の箱根町などと繋がりがあり、移住のためのお手伝いをしています。
松本さん:
もちろん、近所の幼稚園に通う子どもがご家族で農業体験や収穫体験に来てくれることもあります。今でも印象に残っているのは、そうしたイベントで私がけんちん汁を振る舞ったところ「すごくおいしくてお代わりしました。心も温まりました」と、女の子に声をかけてもらったこと。涙が出るほどうれしかったのを今もよく覚えています。その女の子のように、農業体験を通していろいろなことを感じてもらえたらうれしいです。
さまざまな取り組みの「種」を育て、収穫へとつなげる
― コロナ禍の影響で延期になった企画も多いとうかがいました。
今後、どんな楽しいことが起こりそうですか?
松本さん:
2020年は、これまで準備してきたことが大きく花開く予定だったのですが残念です。けれど、しっかり準備をして、行動に移せる時を楽しみに待ちたいと思っています。
西山さん:
村役場と呼んでいる建物の2階は民泊施設としても登録しているので、活用の機会があるといいですね。また、テレワークのスペースとして個人や企業に活用してもらえたらというアイデアもあります。ウリは見晴らし! 里山と農地に囲まれた静かな場所なので、生産性が上がったり、仕事をしながらリフレッシュもしていただけると思います。
― 最後に、「JIMOTTO」とコラボレーションしたいことはありますか?
松本さん:
「つなぐ」「結ぶ」など似たような思いを持ったプロジェクトなので、できることがたくさんありそうですね。例えば、JIMOTTOのネットワークでつながっている人たちにトカイナカヴィレッジが場を提供して、イベントを開催するのは楽しそうです。ここで、新たなコラボレーションが生まれたらうれしいですね。